歯科医師コラム

要介護高齢者の歯科受診における不安

'22.07.12

介護保険制度が立ち上がってから22年目を迎えます。

医療・介護・保健各職種の互いの連携など、質的に必要なことはほぼ整備されてきたと思います。私自身も、世の中の高齢化に伴う歯科医としての役割を可能な限り努めてきたつもりでした。しかし、様々な研究者のご意見や調査を知ると、まだまだ課題が多いことを認めなければなりませんでした。

認知症本人や家族に対して行った「歯科受診の際の困りごとの経験」、および「認知症の人の歯科治療経験に関する歯科医療機関」の調査があります。(枝広あや子先生・東京都健康長寿医療センター研究所研究員。老年歯科医学会雑誌・2022年4月号所収)

1.調査結果について(調査は2020年)
(表現を端的に短く改作しています)

その調査によれば、認知症本人やその家族は歯科受診に際し、

①予約をする時②主訴を伝える時③治療中④説明を受ける際・・・
などの様々な段階で「困りごと」に遭遇すると言います。そしてその結果次のような「要望」が得られたということです。
①わからない人であると考えずわかりやすく何度も説明してほしい
②本人が表現できない口腔症状への配慮が欲しい
③療養生活への適切なアドバイスをしてほしい
④認知症であってもできる限りの医学的に適切な治療をしてほしい
⑤認知症の経過を踏まえた予知的な視点に立ち定期受診の必要性を説明してほしい

などなど。

2.私の受け止め方

初めはこれらの要望をたいへんショッキングなものと受け止めました。20年以上の施設訪問や在宅要介護者の往診経験、また私の診療所でも、できるだけのことをしてきた自負もあったからです。ところが日々の診療生活の中で次第に疲労や年齢を重ねるにつれ、増してやここ数年のコロナ禍の状況の中で、診療所外の仕事を断念しようかと考えたことも一度ならずありました。

しかし、そこで思い起こしたのは介護保険制度立ち上げの一年前に取得したケアマネジャーの資格と経験でした。

1回目から3回目くらいに受けた人々との多職種の連携は、歯科医としての私の視野を大きく広げたばかりでなく、彼らは現在の状況の中、自治体の包括支援センターの所長となったり、介護認定審査会の委員となり、また地域ケア会議などのリーダーとなって活躍しているのです。私にもう一度初心に立ち返ってもう少し頑張れるのではと思わせてくれた理由がそれでした。枝広先生の論文はその私の背中を押して下さった。先生に深く感謝です。

もうすぐ74歳、まだまだイケます。

文:M.I生