歯科医師コラム

便利な『食』を賢く使う

'13.05.10

先日、ある患者さんとの会話の中で、『食』について考えさせられた。
患者さんは70代後半の一人暮らしの男性、毎日の食事の確保が悩みの種だとおっしゃる。我々、歯科医師は患者さんのお口の健康増進に寄与すべく、日々奮闘している。しかし『食事』について言及する機会は少ない。

最近、スーパーやコンビニエンスストアでは、高齢者向けの食品や調理済食品が多く見かけられる。かつては4~5人前分のセットが大半だったが、最近は小分けされたパックが発売されたり、また、高齢者の嗜好にあった食材や、調理しやすいように各種の材料が調理済でまとめられたものも販売されており、売上は好調のようだ。
一方、通販や宅配サービスも多くのものが販売され活発化している。通販では解凍すればそのまま食事ができるお弁当スタイルの冷凍食品が売られ、また宅配サービスでは日々の食事が日替わり弁当として配達されるなど、これまでのグルメ的な高価なものだけでなく、比較的安価なものも販売され、手作りする以外にも、多様な方法で食事を確保することが可能な環境が広がっている。

高齢者の一人暮らしやご夫婦の場合には、安全、安心の確保された日々の生活の構築は容易なことではない。食事ひとつ例にとってみても、身体的な機能や気力の低下に伴って、食事の準備がおろそかになったり、食事の質に悪い影響がでると、身体的な不具合にも直結する恐れがある。

このような状況を考えると、先のようなサービスには、それなりの有効性があると思われる。しかし、これらを利用する場合には、便利さの一方で注意も必要だろう。
ひとつにはそれぞれの方の嗜好による偏りを防ぐことを考えなくてはならない。勿論、業者はカロリー計算や栄養バランスについては万全であるかのように宣伝している。それでも利用者の自己責任での判断が必要だ。
ふたつ目は費用の問題だ。安価になったといっても、食材から自分で作る場合と比較すれば、当然ながら割高になる。適当な頻度での利用が肝心だし、宣伝に惑わされない賢さも必要だ。ことわざに『衣食足りて礼節を知る』とあるが、食事は単にお腹が充ちれば良いのではなく、またカロリー計算が足りていれば良いものでもない。生活に張りを持たせ、充実させる原動力となる。

高齢になるに従って食が細くなると言われるが、だからこそ質の良いもの、嗜好に叶うもの、そして栄養価のあるものを、時には手間をかけずに食べることは、決して手抜きでも悪いことでもないだろう。そのための出費は自身の健康のための出費であるならば、決して贅沢ではないと思う。世の中の便利なサービスを上手に利用して、高齢期を健康に暮らしていただきたいと願う。